マイコプラズマは性感染症の1つです。
比較的最近になり認識された性感染症なので、あまり知られていません。
無症状の方も多く、感染が拡がっています。
また抗生剤に対する耐性化がすすんでおり、治療が難しいことから非常に問題視されています。
このページではマイコプラズマ・ジェニタリウムについて、症状や治療方法について詳しく解説します。
目次
マイコプラズマとは?
マイコプラズマは性行為によって感染する性感染症(性病)です。
最近になって性感染症として認識され始めました。
以前は尿道や咽頭(のど)に性感染症を疑う症状が出ているのに、検査しても原因がわからない。
淋菌やクラミジアは陰性なので、治療方法に迷うことが多々ありました。
そんな原因不明の性感染症の中に、マイコプラズマが悪さをしているケースがあることがわかりました。
状況(性風俗店利用や不特定多数との性交渉など)や症状からは性感染症を強く疑うのにもかかわらず、淋菌・クラミジアではない(非淋菌性非クラミジア性尿道炎)患者を対象にマイコプラズマの検査をした場合、20~25%でマイコプラズマ(・ジェニタリウム)が「陽性」となった報告があります。
これをうけて最近では適切な治療を早期に選択するために、淋菌やクラミジアと同時にマイコプラズマの検査します。

マイコプラズマといわれると肺炎のイメージがある方もいるでしょう。
肺炎のマイコプラズマと性感染症のマイコプラズマは原因となる菌が異なります。
肺炎をおこすマイコプラズマは「マイコプラズマ・ニューモニエ(Mycoplasma pneumoniae)」と呼ばれる菌です。
この菌は呼吸器官に感染して発熱や咳、気管支炎や肺炎をおこします。
マイコプラズマによる性感染症は以下の4種類の菌が原因としてあげられます。
- マイコプラズマ・ジェニタリウム(Mycoplasma genitalium)
- マイコプラズマ・ホミニス(Mycoplasma hominis)
- ウレアプラズマ・パルバム(Ureaplasma parvum)
- ウレアプラズマ・ウレアリティカム(Ureaplasma parvum)
この中でマイコプラズマ・ジェニタリウム(Mycoplasma genitalium:MG)が問題です。
マイコプラズマ・ジェニタリウムは性感染症の原因となることが判明しています。
マイコプラズマ・ジェニタリウム以外の3種類は性器の常在菌(健康な人の身体に日常的に存在する細菌)です。
健康な女性でも80%がウレアプラズマ、50%がマイコプラズマ・ホミニスを持っているといわれる報告があります。
男性においても健康成人男性の25%でマイコプラズマ・ホミニスがみられたとの報告があります。
マイコプラズマ・ジェニタリウム以外は単独で同定されることがまれで、性感染症との関連がはっきりとわかっていません。
重要ポイント
- 性感染症の1つ
- 症状はあるのに淋菌やクラミジアではないケースで疑う
- マイコプラズマ・ジェニタリウムが問題になる
参考文献:
米国疾病管理予防センター 2015 Sexually Transmitted Diseases Treatment Guidelines. https://www.cdc.gov/std/tg2015/emerging.htm.
Waites KB, Schelonka RL, Xiao L, Grigsby PL, Novy MJ. Congenital and opportunistic infections: Ureaplasma species and Mycoplasma hominis. Semin Fetal Neonatal Med. 2009 Aug;14(4):190-9.
Lee YH, Rosner B, Alpert S, Fiumara NJ, McCormack WM. Clinical and microbiological investigation of men with urethritis. J Infect Dis. 1978 Dec;138(6):798-803.
マイコプラズマはどこから感染する?
マイコプラズマは性行為によって感染します。
感染の可能性がある性行為は以下のことです。
- セックス
- オーラルセックス(フェラチオ・クンニリングス)
- アナルセックス(肛門性交)
- キス
マイコプラズマは比較的弱いため、これらの性行為以外で感染することはほとんどありません。
同じトイレ、公衆浴場の浴槽やイス、同じタオルを使用しても感染することはまずないとされています。
日常生活で感染してしまう可能性はほぼないといっていいでしょう。

マイコプラズマの症状は?
男性では尿道や咽頭(のど)、
女性では膣や咽頭(のど)に感染します。
アナルセックスにより肛門~直腸に感染することもあります。
感染してから発症するまでの期間(潜伏期間)は、
3日~5週間程度になります。
個人差もおおきく、無症状であることも多いことから、いつ感染したのかわからないケースも多いです。
男性では
- 無症状のことも多い
- おしっこを出すとき痛い
- 尿道に違和感がある
- 尿道がかゆい
女性では
- 無症状がほとんど
- おりものがふえる、性交痛、不正出血など
- 排尿時の痛み
- 感染がすすむと下腹部痛(骨盤腹膜炎)
- 不妊症
- 流産・早産
咽頭(のど)に感染すると
- 無症状のことが多い
- 咽頭(のど)の痛み
- 咽頭(のど)の違和感
- 咳(せき)
直腸(肛門)に感染すると
- 無症状のことが多い
- 肛門の中の痛み、かゆみ
- 肛門からの出血
マイコプラズマの検査方法は?
マイコプラズマの検査は核酸増幅法である Real-Time PCR 法などによって行います。
PCR法は感度も特異度も高く、適切に診断をすることができます。
当院でもこのPCR検査をおこなっています。
検査結果はおよそ5日後にでます。
マイコプラズマ尿道炎はクラミジア尿道炎や淋菌性尿道炎と同時に感染することがあります。
典型的な症状はあるものの、症状だけで完全に判別することはできません。
以上のことから当院ではクラミジア・淋菌の同時検査をおススメしています。
男性では?
男性の検査方法は「尿」を検体としてだしていただきます。
この尿を使用してPCR検査をおこないます。
女性では?
女性の検査方法は膣に綿棒(スワブ)をいれて、膣内の分泌液をとらせていただきます。
この分泌液を使用してPCR検査をおこないます。
検査は女性看護師が案内するので安心してください。

マイコプラズマの治療方法は?
抗生剤(飲み薬)で治療していきます。
飲んでいただく薬の種類によりますが、14~21日間程度の内服になります。
マイコプラズマは耐性化(抗生剤の効果がない)がすすみ、治療が難しいとされています。
一方でマイコプラズマ・ジェニタリウムの大部分は6か月以内に自然に消えてしまうという報告もあります。
この点では必ずしも治療をしなければいけないというわけではないと考えます。
しかし、痛みや違和感など症状が出ている場合には治療をする必要があります。
不妊症については関連性を示す報告もあれば、関連がないとの報告もあり現時点では明確な答えはありません。
ただし男性・女性ともに不妊症になるリスクがゼロではないという点は、治療を選択する際に重要になります。
菌の耐性化により高用量の抗生剤を長期間のむ必要があるため、身体への負担が大きくなります。
マイコプラズマ・ジェニタリウムによる症状と抗生剤による健康被害のバランスを取りながら治療にのぞむことが大切です。
症状が改善していれば「陽性」であっても経過観察することもあります。
重要なポイント
- 14~21日間の抗生剤(飲み薬)で治療する
- 耐性化がすすみ治療が難しい
- 症状があれば必ず治療
- 無症状では治療せずに様子をみることもある
- 強い抗生剤を飲む必要があるため身体への負担に注意する
- 感染により不妊症になるリスクはある
参考文献:
Vandepitte J, Weiss HA, Kyakuwa N, Nakubulwa S, Muller E, Buvé A, Van der Stuyft P, Hayes R, Grosskurth H. Natural history of Mycoplasma genitalium infection in a cohort of female sex workers in Kampala, Uganda. Sex Transm Dis. 2013 May;40(5):422-7.
Taylor-Robinson D, Jensen JS. Mycoplasma genitalium: from Chrysalis to multicolored butterfly. Clin Microbiol Rev. 2011 Jul;24(3):498-514.
Pond MJ, Nori AV, Witney AA, Lopeman RC, Butcher PD, Sadiq ST. High prevalence of antibiotic-resistant Mycoplasma genitalium in nongonococcal urethritis: the need for routine testing and the inadequacy of current treatment options. Clin Infect Dis. 2014 Mar;58(5):631-7.
治療・検査費用の目安(保険診療)
症状がある場合には保険診療(自己負担3割)での検査・治療になります。
検査+処方箋料
初診料+検査代+処方せん料の目安になります。
検査項目数によって料金は変わります。
目安:合計2,600~3,800円
再検査
再診料+検査代の目安になります。
検査項目数によって料金は変わります。
目安:合計600~1,800円
お薬代
保険診療なので処方せんをお近く薬局へ持参ください。薬局でお薬代が発生します。
当院受診から完治までの流れ
マイコプラズマは抗生剤で治療をすることができます。
しかし、抗生剤に強い(耐性)ことがマイコプラズマの特徴です。
症状がなくなっても、マイコプラズマが残っている可能性があるのです。
しっかりと完治したところまで確認することが一番大切なことです。
以下に完治するまでの大まかな流れを紹介させていただきます。
STEP
初めての受診
当院に受診されたら尿検査(女性は膣分泌物の採取)をさせていただきます。
マイコプラズマ以外も疑わしい場合は他の性感染症も検査いたします。
マイコプラズマの検査結果がでるまでに数日かかるので、症状によっては治療を開始します。
STEP
結果説明
最初の受診から1週間後を目安に受診いただきます。
検査結果の確認と、マイコプラズマであれば抗生剤治療を開始いたします。
マイコプラズマ以外にも感染していた場合には、同時に治療を開始いたします。
STEP
陰性確認検査
治療開始から3~4週間を目安に再診いただきます。
早期に再検査をしてしまうと、「偽陽性」となる場合があるため、治療から一定期間空けての再検査となります。
症状が改善しているかの確認とマイコプラズマ陰性確認のための尿検査(女性は膣分泌物)を実施いたします。
STEP
結果説明
マイコプラズマが「陰性」になっていることを確認いたします。
万が一、「陽性」であれば追加の抗生剤治療を開始いたします。
「陽性」でも症状が改善している場合には経過観察することもあります。
マイコプラズマの予防方法
マイコプラズマは性行為により感染する病気です。
自身の感染予防だけでなく、大切なパートナーにも感染させないように予防しましょう。
セックスをしない(NO SEX)
極論ですが、セックスをしなければ感染しません。
このノーセックス(NO SEX)も大事な選択肢の一つになります。
安全なセックス(SAFE SEX)
不特定多数とのセックスはやめましょう。
今現在は特定のパートナーしかいなくても、以前にセックスした経験があれば、感染の可能性はあります。
- 二人とも感染していないこと
- お互いに他のセックスパートナーがいないこと
これらが確認できれば、二人のセックスは安全なものになります。
新しいパートナーができたら性病検査に関して話し合いましょう。
より安全なセックス(SAFER SEX)
コンドームを使うことで感染のリスクを減らすことができます。
コンドームは感染している人の精液や膣分泌液が、口や性器の粘膜に直接触れることを防ぎます。
正しいコンドームの使用方法を身につけましょう。
性感染症のリスクがあるオーラルセックスやアナルセックスでもコンドームを使用しましょう。
もちろん100%予防はできませんが、現時点では一番効果のある方法です。
この記事を執筆した人

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あきしま駅前泌尿器科内科 院長
日本泌尿器科学会認定・泌尿器科専門医
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