淋菌(淋病)とは?

淋菌感染症(淋病)は淋菌(Neisseria gonorrhoeae)による感染症です。

日本細菌学会HP(http://jsbac.org/index.html)より

性器クラミジア感染症と並んで、とても頻度の高い性感染症になります。

「淋」は「水をそそぐ・水がしたたり流れる」という意味がある漢字です。

尿道の痛みによって「したたるようにしか尿が出せない」ことが「淋」病の由来とされます。

男性では尿道炎女性では子宮頸管炎を起こします。

もちろん女性でも尿道炎を起こすことがあります。

重症になると男性では精巣上体炎

女性では卵管炎骨盤内炎症性疾患(pelvic inflammatory disease:PID)になります。

淋菌は高温にも低温にも弱く、通常の環境では生きていくことはできません。

そのため性行為によって人から人へ感染するのが、主な感染経路になります。

淋菌に感染している方と性行為を1回した場合の感染率は30%程度と高いです。

近年、性行為の多様化もあり咽頭や直腸感染など性器以外への感染が増加している。

また治療薬である抗生剤に強い淋菌(抗菌薬耐性化)が問題になっています。

あの有名な「ペニシリン」はすでに淋菌に対して効果はありません。

淋菌(淋病)の症状は?

男性では

  • 尿道からドロッとした黄白色の「うみ」
  • パンツが「うみ」で汚れる
  • おしっこを出すとき激しく痛い
  • 尿道に違和感がある
  • 尿道がかゆい

淋菌性尿道炎

男性のクラミジア性尿道炎は、感染後2~7日で症状が出る(発症)とされています。

尿道炎の症状である排尿時の痛み尿道から分泌物(うみ)がでます。

淋菌性尿道炎の尿道からの分泌物は黄色白色のドロドロ(濃い)で量も多いです。

同じく尿道に炎症をおこす性感染症としてクラミジア性尿道炎があります。

クラミジア性尿道炎と比較して発症までの期間(潜伏期間)が短く、症状が重いとされています。

性交渉~膿(うみ)痛み
淋菌2~7
日後
濃い
どろどろ
強い
クラミジア1~3
週間後
うすい
サラサラ
弱い

男性の淋菌性尿道炎の約20~30%にクラミジア尿道炎が同時に感染しています。

症状だけで淋菌性尿道炎と決めつけずに同時検査をおすすめします。

淋菌性精巣上体炎

淋菌性尿道炎を放置すると尿道内の淋菌が精管を逆行します。

逆行した淋菌は精巣上体炎を引き起こします。

はじめは片側だけですが、さらに放置する左右両方に精巣上体炎をおこします。

炎症が非常に強いため、発熱して陰のう(たま)は大きくはれます。

痛みによって歩くことも難しくなることもあります。

治療後に「無精子症」となり男性不妊症の原因となる可能性もあります。

女性では

  • はじめはほとんど症状がない
  • おりものがふえる、性交痛、不正出血など
  • 感染がすすむと下腹部痛(骨盤腹膜炎)
  • 不妊症
  • 子宮外妊娠
  • 流産・早産

淋菌性尿道炎・バルトリン腺炎

男性と同様に尿道に感染をおこすことがあります。

尿道炎は排尿時の痛みや違和感を自覚します。

またバルトリン腺に感染を起こすこともあります。

バルトリン腺とは膣の入り口にある性行為を補助するための粘液を分泌する分泌腺です。

バルトリン腺炎をおこすと局所のはれや痛みがでます。

子宮頸管炎

女性では感染当初はほとんど症状がないことが多いです。

しかし、進行すると子宮頸管炎や卵管炎、骨盤内炎症性疾患をおこします。

子宮頸管炎の症状は、おりものが増える(帯下増加)として出ることがあります。

不正出血性交痛などがあります。

同様の症状をおこす病気としてクラミジア感染症や膣トリコモナス症があり注意が必要です。

骨盤内炎症疾患(pelvic inflammatory disease:PID)

子宮に侵入した淋菌は卵管をへてお腹の中(腹腔内)にまで浸透します。

これにより卵管炎といった子宮付属器炎や骨盤内炎症性疾患を発症します。

お腹の中に侵入した淋菌の菌量が多いと、強い下腹部痛を引き起こすします。

無症状であっても卵管炎が持続することによって卵管障害と癒着がおこり、受精卵が上手く移動できなくなります。

それにより「不妊症」や「卵管妊娠(子宮外妊娠)」となります。

妊婦では羊膜炎の影響で子宮が収縮し、流産・早産につながります。

また赤ちゃんへ産道感染を起こし、新生児結膜炎を発症させます。

骨盤だけにとどまらず腹部全体に感染が広がると、

肝臓の周りで急性かつ劇症の肝臓周囲炎(Fitz-HughCurtis症候群)をおこします。

このように初期は無症状ながら進行すると非常に重い病気になってしまいます。

しっかりと検査をおこない、無症状の淋菌を発見していくことが大切です。

男性・女性ともに

淋菌性咽頭感染

オーラルセックスがふえたことにより、淋菌が咽頭(のど)に感染することもふえています。

淋菌性尿道炎など性器に淋菌感染をおこしているかたの10~30%に咽頭感染をおこしています。

咽頭炎をおこすと「のどの痛み」がでます。

しかし、咽頭に感染しても症状があまり出ないことも多いです。

自覚症状があまりないので、無自覚に感染源になってしまうことがあります。

咽頭に感染した状態でオーラルセックスをすることにより、相手にうつしてしまいます。

淋菌性結膜炎

淋菌はまれに重症の結膜炎をおこすことがあります。

淋菌と直接触れてしまった場合、

また感染しているご自身の性器からの自家接種(手に淋菌がついた状態で目をこすってしまったなど)により感染します。

感染後から12~48時間で発症するといわれています。

まぶたのむくみや痛み、大量のうみがでてきます。

さらにまれですが、角膜の潰瘍・膿瘍・穿孔のほか失明につながることもあります。

淋菌直腸感染

肛門性交により淋菌が直腸に感染します。

男性同性間性的接触者(MSM; Men who have Sex with Men)や女性にみられます。

ほとんど症状がないことが多いです。

ときおり肛門のかゆみや不快感、下痢、血便、肛門性交痛が出ます。

淋菌(淋病)の検査方法は?

淋菌の検査方法には検鏡(顕微鏡検査)・培養検査・PCR法があります。

最も迅速な検査方法は検鏡(顕微鏡検査)です。

PCR法は感度も特異度も高く、適切に診断をすることができます。

当院ではPCR検査をおこなっています。

検査結果はおよそ5日後にでます。

淋菌性尿道炎はクラミジア性尿道炎と同時に感染することがあります。

淋菌性尿道炎の20~30%にクラミジアも同時感染していたと報告があります。

典型的な症状はあるものの、症状だけで完全に判別することはできません。

以上のことから当院ではクラミジアと淋菌の同時PCR検査をおススメしています。

PCR検査の欠点として薬剤感受性検査ができないことがあります。

薬剤感受性検査とは現在感染している「淋菌」を「どの薬(抗生剤)」で殺すことができるか調べる検査です。

多くの抗生剤が効きにくくなる(多剤耐性)淋菌の増加が問題になっています。

保険診療上はPCR検査と培養検査を最初から同時に行うことはできません。

抗生剤が効きにくい場合に追加で培養検査を行い薬剤感受性を調べて治療にあたります。

尿道淋菌検査

男性尿(尿検査)をとらせていただきます。

直前に排尿せずに来院ください。

女性は専用の綿棒で膣内の分泌物をとらせていただきます。

綿棒の挿入は女性看護師がサポートします。

生理中の検査は難しいことがあります。

妊婦の方は婦人科での検査をお願いします。

咽頭淋菌検査

紙コップ半杯のお水で15秒間しっかりと「うがい」をしていただきます。

吐き出した「うがい液」を検査にだします。

肛門淋菌検査

専用の細い綿棒を肛門に数センチ入れさせていただきます。

検査は男性医師または女性看護師がおこないます。

ご自身で綿棒を挿入いただいても問題ありません。

淋菌(淋病)の治療方法は?

抗生剤(点滴)で治療していきます。

現在、飲み薬の抗生剤だけで淋菌を治療することは難しいです。

多剤耐性化がすすんでいることが理由です。

点滴は30~60分程度、1回のみで終了します。

淋菌性精巣上体炎や淋菌性骨盤内炎症疾性疾患の場合には連日点滴が必要になります。

体調次第では入院可能な連携病院を紹介させていただきます。

淋菌は短期間の再感染や耐性菌による治療失敗もあります。

必ず再検査で淋菌の完治「陰性」を確認することが大切です。

またパートナーも一緒に検査・治療を行うことも大切です。

治療・検査費用の目安(保険診療)

症状がある場合には保険診療(自己負担3割)での検査・治療になります。

検査+処方箋料

初診料+検査代+処方せん料の目安になります。

検査項目数によって料金は変わります。

目安:合計2,600~3,800円

再検査

再診料+検査代の目安になります。

検査項目数によって料金は変わります。

目安:合計600~1,800円

お薬代

保険診療なので処方せんをお近く薬局へ持参ください。薬局でお薬代が発生します。

自費診療

無症状の方、保険証を使用せずに検査・治療をうけたい方は自費診療になります。

料金の詳細は以下よりご確認ください。

当院受診から完治までの流れ

淋菌は抗生剤で治療をすることができます。

しかし、抗生剤に強い淋菌の報告があります。

およそ1割弱の方で最初の抗生剤だけでは完治しない場合があります。

症状がなくなっても、淋菌が残っている可能性があるのです。

しっかりと完治したところまで確認することが一番大切なことです。

以下に完治するまでの大まかな流れを紹介させていただきます。

STEP

初めての受診

当院に受診されたら尿検査をさせていただきます。
淋菌以外も疑わしい場合は他の性感染症も検査いたします。
淋菌の検査結果がでるまでに数日かかるので、症状によっては治療を開始します。

STEP

結果説明

最初の受診から1週間後を目安に受診いただきます。
検査結果の確認と、淋菌であれば抗生剤治療を開始いたします。
淋菌以外にも感染していた場合には、同時に治療を開始いたします。

STEP

陰性確認検査

治療開始から3~4週間後を目安に再診いただきます。
早期に再検査をしてしまうと、「偽陽性」となる場合があるため、治療から一定期間空けての再検査となります。
症状が改善しているかの確認と淋菌陰性確認のための尿検査を実施いたします。

STEP

結果説明

淋菌が「陰性」になっていることを確認いたします。
万が一、「陽性」であれば追加の抗生剤治療を開始いたします。

淋菌の予防方法

淋菌感染症は、淋菌(Neisseria gonorrhoeae)が性行為により感染する病気です。

自身の感染予防だけでなく、大切なパートナーにも感染させないように予防しましょう。

セックスをしない(NO SEX)

極論ですが、セックスをしなければ感染しません。

このノーセックス(NO SEX)も大事な選択肢の一つになります。

安全なセックス(SAFE SEX)

不特定多数とのセックスはやめましょう。

今現在は特定のパートナーしかいなくても、以前にセックスした経験があれば、感染の可能性はあります。

  • 二人とも感染していないこと
  • お互いに他のセックスパートナーがいないこと

これらが確認できれば、二人のセックスは安全なものになります。

新しいパートナーができたら性病検査に関して話し合いましょう。

より安全なセックス(SAFER SEX)

コンドームを使うことで感染のリスクを減らすことができます。

コンドームは感染している人の精液や膣分泌液が、口や性器の粘膜に直接触れることを防ぎます。

正しいコンドームの使用方法を身につけましょう。

性感染症のリスクがあるオーラルセックスやアナルセックスでもコンドームを使用しましょう。

もちろん100%予防はできませんが、現時点では一番効果のある方法です。

参考文献

JAID/JSC 感染症治療ガイドライン 2018

日本性感染症学会誌 性感染症 診断・治療 ガイドライン

この記事を執筆した人

青木悠介
青木悠介
あきしま駅前泌尿器科内科 院長
日本泌尿器科学会認定・泌尿器科専門医
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